『千年の祈り』イーユン・リー

週末、二人で藤の花影に座っているときなど、若い頃できなかった恋というのはこういうものか、と林ばあさんは思う。好きな男の子と手をつなぎ、知ってはならない秘密を聞かずにいる。

作者は北京で生まれ育ち、大学院から渡米して、そののち英語で小説を書き始めたとのこと。母語ではない言葉を得ることによって、小説を書くことができるようになる、というのは何となくわかるような気がします。老いた未亡人が抱く小さな男の子への身を切るような思い、ミス・カサブランカと呼ばれる英語教師の約束、離婚した娘を心配してアメリカまでやってきた父親。逃れようのないものの中で身をよじるような話ばかりで、心あたたまるというよりは、心が燃やされる。私たち、という人称で共同体として語られる「不滅」は、圧縮された中国の歴史を見るようで圧巻。余韻の深さに眩暈がするほどの、出色の短篇集でした。

千年の祈り (新潮クレスト・ブックス)

千年の祈り (新潮クレスト・ブックス)