『雪沼とその周辺』堀江敏幸

味わい深い。税込み380円の、いまどきその値段で、と驚くような薄い文庫本。雪沼とその周辺に住む、もう若くはない人たちと、もう新しくはない道具を描き出す染み入るように静かな言葉を読んでいくうちに、つぷりつぷりと雪沼に沈んでいく。大げさな仕掛けはひとつもないのに、心が動いていく。かなしい、せつない、さみしい、うれしい、どれでもあって、どれでもない場所にたどりつく。不安定で、それでもここしかありえないというところに着地する「送り火」が素晴らしい。

雪沼とその周辺 (新潮文庫)

雪沼とその周辺 (新潮文庫)