『5』佐藤正午

堪能した。佐藤正午の物事を斜め後ろから見るようなところがよく出た作品だと思う。
主人公は小説家で、現在までに2回業界から干されており、2回業界に戻ってきて、2回離婚して、若い女の子と付き合っていて、さらに人妻と不倫し、さらに出会い系サイトで片端から出会っていたりする。その小説家と周辺の人物をめぐる物語なのだが、一筋縄ではいかない。それは語り手の小説家が、おそらく自分自身でももてあますほど一筋縄ではいかない、ひねくれた人間だからだ。物語は迂回に迂回を重ね、事態は絡まり縺れ、収拾がつかなくなる。ある意味で『Y』のような話でもあるのだが、より不合理で、より皮肉に満ちている。必ず移ろうものを季節と呼び人の心と呼ぶ、のだ。

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