文芸誌を読みました。

もう11月号が出てるのになんですけど、10月号の感想というか、備忘録です。長いです。


新潮10月号
岡田利規「わたしの場所の複数」
吉村昭「死顔」

文學界10月号
車谷長吉大庄屋のお姫さま」
中原昌也「誰が見ても人でなし」
松嶋ちえ「壺のめぐり」

すばる10月号
朝倉祐弥「救済の彼岸」
川上弘美「阿檀」
角田光代「クライ・ベイビイ・クライ」
甘糟幸子「天の穴」

群像10月号
青山真治「夜警」
阿川弘之「贋々作を書かざるの記」
伊井直行「ヒーローの死」
絲山秋子「うつくすま ふぐすま」
稲葉真弓「フードコートで会いましょう」
大庭みな子「風紋」
岡崎祥久うずら
小川国夫「止島」
小川洋子「ひよこトラック」
角田光代「父のボール」
金原ひとみ「デリラ」
川上弘美「姉妹」
桐野夏生「幻視心母」
黒井千次「同行者」
河野多惠子「魔」
佐伯一麦「誰かがそれを」
坂上弘薄暮
島田雅彦「鉄が好き!」
島本理生「Birthday」
笙野頼子「この街に、妻がいる」
瀬戸内寂聴「燐寸抄」
高井有一「梅雨の晴れ間」
高樹のぶ子「懐石」
高橋源一郎「第三回宮沢賢治世界大会に参加して」
高橋たか子「遠い水、近い水」
竹西寛子五十鈴川の鴨」
多和田葉子「晴れたふたりの縞模様」
辻原登「母、断章」
津村節子「木の下闇」
中沢けい「こきっとぽきっと」
中村文則「白の世界」
林京子「ラ・ラ・ラ、ラ・ラ・ラ、」
原田康子「胡蝶」
藤沢周「連火」
藤野千夜「願い」
古井由吉「野晒」
星野智幸「エアー」
堀江敏幸「方向指示」
舞城王太郎「重たさ」
町田康「ホワイトハッピー・ご覧のスポン」
松浦寿輝「地下」
村田喜代子「惨惨たる人」
モブ・ノリオ「養殖時代」
吉村萬壱「イナセ一戸建て」
リービ英雄「高速公路にて」
李恢成「冷蔵庫」

文芸誌を一通り購入し、そこに載っている読み切りの小説を読んでみました。10月号は群像が六十周年記念号だったので異様に時間がかかりました。読み終わって、時間もお金もかかるわりに得るものがほとんどないと気がつきましたが、もうしばらくはやってみようと思います。
さて、上にあげたリストですが、すばる10月号の「救済の彼岸」だけは読めませんでした。冒頭の一段落を引用します。

 その耳ざわりな音によって、深海の底から生まれた気泡のように意識が急上昇しながらよみがえり、現実的な淀みにみちたこの世界へと誘われた。自分がどこにいる何者かも思い出せない、思い出そうと試みることさえできない赤子のような忘却のなかで、カーテンの隙間から射しこんでいる午後のものらしい一条の強い光を受け、ようやくわたし自身と存在が一致する。チャイムは鳴りつづけている。外界からの使者が訪問を告げるその音は、絶えずわたしを不安にさせる。わたしの方には、彼らに用はないのだから。

文学的教養と忍耐力の双方が欠けているのは自覚しております。これは無理でした。長いし。
おもしろかったものを順不同であげると、岡田利規「わたしの場所の複数」、甘糟幸子「天の穴」、絲山秋子「うつくすま ふぐすま」、島本理生「Birthday」、金原ひとみ「デリラ」、角田光代「クライ・ベイビイ・クライ」、町田康「ホワイトハッピー・ご覧のスポン」、吉村萬壱「イナセ一戸建て」、という感じでしょうか。群像は量が多すぎて、もはやほとんどが忘却の彼方へ旅立っていってしまいました。岡田利規は、演劇と同じ文体に見えて小説をきちんとやってる。甘糟幸子は、作者の年齢を確認して、また身辺雑記を読まされるのか、とげんなりしていたところへの不意打ちにどっきり。町田康は「一般の魔力」的な性格悪い路線の話。島本理生は相変わらず素直すぎて対応に困る。金原ひとみは生きるのが大変そう。
小説以外のものだと、執筆者一覧を楽しく読んだ。文芸評論家、というのは普段何をしているのだろうか、まさか評論で生計をたてているわけではあるまいし、とか。文學界の新人小説合評も好きで、10月号は福嶋亮太が力みすぎていておもしろうございました。

新潮 2006年 10月号 [雑誌]

新潮 2006年 10月号 [雑誌]

文学界 2006年 10月号 [雑誌]

文学界 2006年 10月号 [雑誌]

すばる 2006年 10月号 [雑誌]

すばる 2006年 10月号 [雑誌]

群像 2006年 10月号 [雑誌]

群像 2006年 10月号 [雑誌]