『魔王』伊坂幸太郎

「馬鹿でかい規模の洪水が起きた時、俺はそれでも、水に流されないで、立ち尽くす一本の木になりたいんだよ」

そう語る人が、そのために力を持ち、「自分自身が洪水になる」ことが示唆されていることがこの話のいちばん怖いところなのではないのか。「魔王」の主人公は、「考えろ考えろ」と言いながら、自分の力のあり方についてはまったく、全然、ちっとも考えることなく、無邪気に力を使うのです。僕はこの兄弟を「善き者」として見ることができません。考えろ、と言うだけで満足して思考停止することがありませんように。頭が痛くなる話でした。

魔王

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