『愛についてのデッサン』野呂邦暢

1979年に出た『愛についてのデッサン』に佐藤正午の解説を加えた本。出た当初、欲しいなあ、でも大人の本棚はちょっと高いですよなあ、などと考えていた自分に言いたい、早く買いなさい、と。野呂邦暢は「草のつるぎ」で芥川賞を受賞し、佐藤正午によれば、「万年筆のキャップをはずし、原稿用紙にたった一行でも文を書けばそれが詩になる」ような文章を書いた小説家であります。この『愛についてのデッサン』は、25歳で古本屋をついだ若者の、詩と旅をめぐる連作短編集。表題作「愛についてのデッサン」が素晴らしい。するすると読んで最後までたどりついて、初めて自分が沼に沈んでいることに気がつくような、至福の読書体験でした。本を閉じたあとも深い余韻が残る上質の小説。小説を読んでいて良かったなあ。

愛についてのデッサン――佐古啓介の旅 (大人の本棚)

愛についてのデッサン――佐古啓介の旅 (大人の本棚)