2007-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『ペルーからきた私の娘』藤本和子

ブローティガンなどの翻訳で知られる藤本和子のエッセイ集。ずいぶん前の本ですが、昨年トークイベントで見た人柄そのまんまの感じ(道路標識と土木工学を信頼していない、が出てきましたよ)。様々な不合理なことに、決然と顔を上げて、目をそらさずにいる…

1月の総括。

何かもう1月の初めに読んだ本とか忘れてるわあ。『独白するユニバーサル横メルカトル』とかついこの間読んだんだねえ。というわけで、36冊読みました(感想書いてないのが2冊)。絲山秋子の『エスケイプ/アブセント』が圧倒的におもしろかったので、皆さん読…

『安楽椅子探偵アーチー オランダ水牛の謎』松尾由美

文字通りの安楽椅子探偵(安楽椅子に座った探偵ではなく、安楽椅子「が」探偵)アーチーと小学生及川衛のシリーズ第2弾。いかにもな「日常の謎」のお話は、読んでいてほっとします(謎がちょっとこじつけっぽくわざとらしいのも含めて)。 (創元クライム・ク…

『愛と癒しと殺人に欠けた小説集』伊井直行

「ヌード・マン」「掌」「ローマの犬」「スキーに行こう」「微笑む女」「えりの恋人」の6つの短編が収録されている。「ヌード・マン」の語りと展開にやられた。これは変ですよ。どういう小説を書くか、どのように小説を書くかということに対して非常に自覚的…

『ロリータ』ウラジミール・ナボコフ

わかしませんせい、注釈を再読時に読んでほしいなら最初に書いといてよ!読解のための注釈であるということは、序文を読んで注釈を見た時点でわかることではあったんですが、やっぱり本文中に思わせぶりにアスタリスクが出てきたら見ちゃうよねー。正直気が…

『忘れられる過去』荒川洋治

エッセイ集。たとえば、「読書を「失わない」ことがたいせつである」なんて何気ない言葉から、この人がずっと「読書する人」であることが感じられる。そうかと思えばテレビドラマを見ていたりする。当方の浅学でまったく知らない本が結構あるのだが、そんな…

『あなたの町の生きてるか死んでるかわからない店探訪します』

ありえない中華料理屋に大爆笑。誰もが心の中にひとつは持っている、あのお店営業してるのかしら……何を出してるのかしら……、という「生きてるか死んでるかわからない店」を探訪する恐怖企画。絶対に自分は行きたくないけど、だからこそこのチャレンジャーな…

『一瞬の風になれ』佐藤多佳子

泣きながら一気読み、あとには何にも残らないさっぱりした物語でした。主人公ふたりが最初から選ばれた才能を持つ人間なのと、語り口が軽薄なので(男子高校生らしさは出てるのかもしれないけど)、ドロドロした部分がなくて、それが読んでいて物足りない。…

『のりたまと煙突』星野博美

す、すいません、小説だと思ってたら違いました。あう。エッセイ集です。ただ軽く読めるようなものではなくて、ひとつひとつにきちんと「考えたこと」が書いてある。のりたま、というのは、のりとたまという猫の名前で、いつの間にやら飼うことになってしま…

『つまみぐい文学食堂』柴田元幸

いやあ、美味しい話満載かと思ってたらさすが柴田元幸、おいしくない話満載でした。「英米文学」だから美食を期待してはいけないのですがね。ちなみにイラストは吉野朔実で、柴田吉野対談も収録されています。お得。つまみぐい文学食堂作者: 柴田元幸出版社/…

『蕭々館日録』久世光彦

表紙の麗子像にちなんで名づけられた麗子は文士の娘。5歳の女の子が語り手となってつづられる、昭和のはじめの物語。芥川龍之介、菊池寛、小島政二郎をモデルにしていて、麗子の父親は小島政二郎をモデルにした児島蕭々という人物であるわけですが、芥川龍之…

『中庭の出来事』恩田陸

思えば恩田陸は「演じる」ということを好んで描く作家だった。それはもう『六番目の小夜子』からそうだった。「中庭にて」「旅人たち」『中庭の出来事』が交差する本作は、読み進めても一向に見えてこないのに、それがうまいぐあいに引きとして機能していて…

『ηなのに夢のよう』森博嗣

もうミステリじゃないですけど、誰もそんなこと気にしてないですよね。諏訪野が良かった。もっと諏訪野出して。森読者にとっては感慨深い1冊ではありました。ηなのに夢のよう (講談社ノベルス)作者: 森博嗣出版社/メーカー: 講談社発売日: 2007/01/12メディ…

『世界文学を読みほどく』池澤夏樹

今年の秋には河出書房新社から池澤夏樹編集の文学全集が出るそうです(マクラ)。ということで、池澤夏樹が世界文学を読みほどく講義@京大を収めた本書。文学の流れがあるということも理解できる一方、読書というのは個人的な体験にすぎないのだ(ここでい…

『モドキ』ほしおさなえ

気持ちの悪いイキモノがうろうろするSFホラー。ていう言い方あるのかな。鳥肌がたつような場面の作り方はなかなか良かったです。表紙の写真は本城直季のもので、ミニチュアを撮ったように見えるかもしれませんが、実は普通の風景を撮ったものです。『small p…

『りんこ日記』『りんこ日記 2』川内倫子

人気のある写真家らしくあちこち飛び回ったり、いろんな人に会ったりもしているのですが、時々ぐったりしたり、家族に会いに行ったりもしていて、良い感じでイメージと違いました(写真家=バイタリティのカタマリ、みたいな貧困なイメージしかなかったせい…

『パラレル』長嶋有

デビューしてすぐに芥川賞を受賞したせいか、その後着実にうまくなっていっていて、コンスタントに良い作品を出しているのに、あまり話題にならない長嶋有。早すぎる受賞も考えものかもしれません。ゲンダイニホンブンガク自体が日陰の存在であるということ…

『新・ちくま文学の森2 奇想天外』

図書館で「新・ちくま文学の森」を少しずつ借りてきて読んでます。全集はいろいろ続かなくて読めないしなあ、という自分にはちょうどいいアンソロジー。名前だけは知っている作家(が多すぎる)にふれることができて良いです。国内から海外まで収録作が幅広…

『この街の今は』柴崎友香

「〜やねん」みたいな大阪弁って(大阪弁ですよね?)、文字にすると非常にわざとらしい感じが漂うことが多くて、方言の扱い方ってすごく難しいものがある。著者がネイティブ大阪の人でも、無理なものは無理なこともある中、これは普通にそのへんの若者が話…

『ガリヴァー旅行記』ジョナサン・スウィフト

がりばー、か……、と思って読み始めましたが、予想よりは楽しく読めました。個人的には、世界に対する呪詛の吹き出す第4章がお気に入り。そうですよねー、こんな世界じゃ生きていけないですよねー。ガリヴァー旅行記 (岩波文庫)作者: スウィフト,Jonathan Swi…

『夜のある町で』荒川洋治

エッセイ集。この人も世界音痴だ!とラーメンを作るくだりの文章を読んで思いました。しかし世界音痴の人は異性が好きで、そのうえモテている(ような気がする)。「希望の針」という文章で、異性からの「針一本」のサインを見逃してはならない、そのサイン…

『エスケイプ/アブセント』絲山秋子

「きゅうばんせんの、でんしゃは、きゅうこう、ぎんが、おおさか、ゆきです」 わかってらい。でも、黙って汽車を待つ。汽車が来ることだけを待つ。 おれこういう静かな確信みたいなもんに弱いの。 どうしよう、すごく良かったよ。「エスケイプ」も「アブセン…

『赤朽葉家の伝説』桜庭一樹

いやいやこれは大変に力のこもった作品でした。山陰地方の旧家を舞台に女三代を描くサーガ。レディースから漫画家になるというむちゃくちゃな設定(でもいかにもあの時代っぽい)の毛毬の話が良い。神の時代から人の時代へ。赤朽葉家の伝説作者: 桜庭一樹出…

『春の魔法のおすそわけ』西澤保彦

西澤保彦がどこにいこうとしているのかがわからない……。まあこういう作品を読むのも楽しかったりはするんですが。春の魔法のおすそわけ作者: 西澤保彦出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2006/10メディア: 単行本 クリック: 1回この商品を含むブログ (28…

『青猫家族輾転録』伊井直行

新聞や雑誌の評で昨年のベストにあげている人が何人かいて、手にとってみました。読み始めてすぐ、おお、これは読んだことがある!と気づきました。新潮掲載時に読んでましたよ。それとは「違う作品」であるらしいのですが。主人公が50歳を過ぎていまだに「…

『ある陪審員の四日間』D・グレアム・バーネット

ノンフィクションです。ニューヨーク在住で陪審員に選ばれた著者が、呼び出しを受け裁判を傍聴し(傍聴でいいんだっけ?)陪審員長になり喧々諤々の話し合いをし評決を出し日常に戻るまでの話。陪審制度そのものよりも、その制度の中で人はどう動くのかがお…

『削除ボーイズ0326』方波見大志

小学生が主人公なので、あーポプラ社っぽいなー、と安直に思ってしまった。おもしろいし、よく書けてはいるんだけど、もうひとつ、心に残るものがない。あざといと感じたとしても、最後にもう1章必要だったと思う。まあ、2000万円を手にじっくり次の作品に取…

『独白するユニバーサル横メルカトル』平山夢明

きもちわるーい。なぜかこのミス1位になってしまった、グロ幻想短篇集。生理的に気持ち悪い描写が多いので、受け付けない人はだめかもしれない。でも、きちんとエンターテイメントにカスタマイズされているので(本気でグロを狙って書いたらこんなもんじゃす…

『ブラック・ベルベット―緋の眼』須賀しのぶ

ヴァルカーレ鬼畜編。いつものことですけど。ブラック・ベルベット―緋の眼 (コバルト文庫)作者: 須賀しのぶ,梶原にき出版社/メーカー: 集英社発売日: 2006/11メディア: 文庫この商品を含むブログ (9件) を見る

『僕たちは池を食べた』春日武彦

これ好き。狂気と正気のありかたが自分にとってちょうどいい。精神科医春日武彦の日常と非日常、といった感じの文章で、患者の話や自分自身の話を微妙にフィクションにずらして書いている。しかし、これっていちばん「変」なのは連れ合いだよなあ。常人とは…