2006-03-01から1ヶ月間の記事一覧

『草の上の朝食』保坂和志

まだ半分も著作を読んでいないのにこんなことを言うべきではないことはわかっていますが、『プレーンソング』とその続編であるこの作品で、保坂和志は性欲がからんだかたちでの狭義の青春を書くのを終わりにしたのだと思います。劇的な何かが起こるわけでは…

『君がぼくに告げなかったこと』図子慧

図子慧久々の新刊。雰囲気としては恩田陸の『ネバーランド』のような、男子校、寮、謎、という感じで、恩田陸よりエロい空気が特徴でしょうか。好きな人にはたまらないのではないかと。文章も端正で読みやすいので、お、と思った方は是非。君がぼくに告げな…

『プラスティック・ソウル』阿部和重

封印されていたのもむべなるかな、という作品。三人称から一人称へさらに別の人物へふらふらと視点がかわり続けるので、読んでいると酔います。『シンセミア』が書かれたあとでは、いかんともしがたい、と作者が思うのも理解できますが、これはこれでおもし…

3月のまとめ。

33冊読了。『犬神家の一族』は4月に持ち越し。こうやってどんどんずれこんでいくんだ……。ベストは『エムズワース卿の受難録』、裏ベストは『魔王』で。4月は積読の解消を第一に考えたい。無闇に本を買わない借りない。です。

『日本語ぽこりぽこり』アーサー・ビナード

第21回講談社エッセイ賞受賞作。「閑さや岩にしみ入る蝉の声」、という句の話が出てくるのですが、言われるまではふつうに蝉はたくさんいて四方八方から聞こえてきていると思っていたのに、考え出すと別に蝉1匹でもいいような気がしてきて、頭がぐるぐるに。…

『小指の先の天使』神林長平

連作というほどではありませんが、はっきりと同じ世界観を持つ短編集。いやほんとに、これが20年ものスパンで書かれたということがにわかには信じがたいほど、ぶれのない世界。その歳月による変化が、全体を通して違和感なく作品に溶かしこまれていて、唸り…

『文盲 アゴタ・クリストフ自伝』アゴタ・クリストフ

自伝とはいえ、人生をなぞるように綴られるのではなく、研ぎ澄まされた文章で、切り取られた時間が語られる。ハンガリーで生まれ、亡命してフランス語圏に行った彼女は、フランス語を敵語であると言い、フランス語で書くことは挑戦であると言う。もちろんす…

『ニンギョウがニンギョウ』西尾維新

やー、見事に期待通りおもしろくなかったね。というか、戯言シリーズを読んでいるときに感じるのと同じおもしろくなさなので、この人は「物語」はいけるけど、「小説」はだめな人なんじゃないだろうかと。まあ、戦略的にこの本は出すべきではなかったと思い…

『おまかせハウスの人々』菅浩江

初出は小説現代の連作短編集。ロボットやなんかがもっと身近になった世界を描いていますが、メインは生活が便利になってもままならない人間の心。特に最初の「純也の事例」が大変良かった。ロボット三原則も出てくるし。おまかせハウスの人々作者: 菅浩江出…

『ボーナス・トラック』越谷オサム

第16回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作品。これ、良かったですよ。ひき逃げされて死んでしまった若者が犯人を探す、ありがちな幽霊モノではあるんだけど、キャラクターがいいので、素直に読めます。構成に若干冗長なところはあるものの、十分合格点…

『もうひとつの季節』保坂和志

この表紙は良すぎる。『季節の記憶』の続編で、メインの4人+猫で描かれる物語。猫!きた!と思いました。子供と動物を使うのは反則ですよ。物語的なものを周到に避ける保坂が、ああいうエピソードを書いたのにちょっとびっくりした。もうひとつの季節 (中公…

『人に言えない習慣、罪深い愉しみ―読書中毒者の懺悔』高橋源一郎

ああまた読みたい本が増えちゃったよ。人に言えない習慣、罪深い愉しみ―読書中毒者の懺悔 (朝日文庫)作者: 高橋源一郎出版社/メーカー: 朝日新聞社発売日: 2003/09メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 7回この商品を含むブログ (34件) を見る

『太陽と戦慄』鳥飼否宇

鳥飼否宇のミステリは下らないけど下品じゃないのでわりと好きです。導師と書いてグルと読ませる冒頭部分の文章に、わあきたあ鳥飼だあ、と嬉しくなりました。ただミステリとしては、ロジックがほとんどなくて、サスペンスで話を引っ張っていくのでちょっと…

『弥勒の掌』我孫子武丸

我孫子武丸で本格ミステリ・マスターズで、目次を見ると教師パートと刑事パートが交互に語られるらしい、とここまでくれば大体想像がつきますね。しかし、結末の感動しなさ加減には清清しさを覚えました。ひどすぎるラスト。素敵。それでこそあびこくんだよ…

『クライム・マシン』ジャック・リッチー

いかにも「短編の名手」的なミステリの短編集。切れ味の鋭さはもちろんのこと、さりげないユーモアも上質で、どれを読んでもおもしろい。個人的には、「歳はいくつだ」「殺人哲学者」なんかのブラックなものと、カーデュラ探偵社シリーズのとぼけた味わいが…

『図書館戦争』有川浩

いやあ、有川浩ですよ。どこまでも。どのへんが有川浩かと言うと、「図書館戦争」という言葉のメインが「戦争」であるところとかですね。結局今までの自衛隊モノと一緒じゃん!せっかく図書館が舞台なんだから、ひとりくらいは書痴キャラ用意しても良かった…

『「これだけは、村上さんに言っておこう」』村上春樹

タイトル長いので略しました。村上さんが読者からの様々なメールに答える本です。笑えるし、泣けます。いや、泣ける人は少ないかもしれませんが、僕は泣けます。泣きました。思い出しても泣きそうです。なぜ泣くのかについては長くなるので書きませんが、一…

『季節の記憶』保坂和志

キラキラしてるなー。鎌倉で暮らす父と幼い息子、隣の家の年の離れた兄妹をメインに、いかにも保坂和志らしい世界が展開されるのですが、子供の視点が導入されることでみずみずしさ80%アップ。これはある種のファンタジーですね。ファンタジー純文学。季節…

『悪魔が来りて笛を吹く』横溝正史

金田一と言えば、岡山あたりのど田舎の因習にまみれた旧家で殺人事件、なわけですが、これは東京のど真ん中、六本木に住む没落した(とはいえ食うに困るほどではない)貴族のお屋敷で殺人事件、です。いやあ、おもしろいなあ。とにかく読みやすいのですよね…

『さいはての島へ―ゲド戦記Ⅲ』アーシュラ・K・ル=グウィン

これがアニメになるのかあ。ゲドは年をとって大賢人になっており、若き王子アレンを連れて旅に出る。物語が重層的につくられているので、どこを見るかによって印象が違うのでは。たぶんアニメだとアレンの成長に重点が置かれて、竜がぐわーってなったりして…

『魔王』伊坂幸太郎

「馬鹿でかい規模の洪水が起きた時、俺はそれでも、水に流されないで、立ち尽くす一本の木になりたいんだよ」 そう語る人が、そのために力を持ち、「自分自身が洪水になる」ことが示唆されていることがこの話のいちばん怖いところなのではないのか。「魔王」…

『電話男』小林恭二

電話を介在させた現代のコミュニケーションの問題を鮮やかに描き出す、とかそういう言い方ではぜんぜんこの小説の良さを伝えられていなくて、電話男の抗争の歴史を描く、といったほうがまだしも「伝えられている」かもしれない。小林恭二の初期作品を読んで…

『エムズワース卿の受難録』P・G・ウッドハウス

ウッドハウスのユーモアは、実によくコントロールされている、と思う。シニカルすぎず、下品すぎず、スノッブすぎない。園芸と豚の飼育が趣味でほとんどそのことしか考えておらず、頭が綿菓子でできている、と表現されるくらいおめでたいエムズワース卿のチ…

『くじ』シャーリイ・ジャクスン

異色作家短編集、というか、日本だと純文学として出版されるような感じの作品集。図書館でリクエストしてみたら旧版が届きましたので、旧版の感想です(最近出たのは改訳されてるようなので)。合理的でない、しかし決して「わからない」で切り捨ててしまう…

『文学刑事サーズデイ・ネクスト1』ジャスパー・フォード

クリミア戦争が100年以上も延々と続いている世界の1985年を舞台に、国民最大の娯楽である文学がらみの犯罪をサーズデイ・ネクストが走り回って解決する、とにかくいろんなものを詰め込んでぐちゃぐちゃに混ぜた話。おもしろかった。『ジェイン・エア』を知ら…

『バスジャック』三崎亜記

三崎亜記の2作目。短編集。相変わらずというか、どうしようもなく春樹っぽいところはどうにかしてほしいですけれども、「自分のよく知っているはずの場所でよくわからないことが起こっている」という世界はけっこう好き。『となり町戦争』よりはおもしろいで…

「天つ風 博物館惑星・余話」菅浩江

博物館惑星本編であるところの『永遠の森』はおもしろかった記憶があるのですが、いやー、こんなにぬるい話だったかなあ、と思いました。ムネーモシュネーはほとんど出てこないし。 (SFマガジン 2006年4月号所収)

『ほとんど記憶のない女』リディア・デイヴィス

これは、アレに似ている……アレに……、と思ったんですが、肝心のアレの正体がどうしてもつかめずもどかしい気持ちでいっぱいです。そんな、「何を見ても何かを思いだす」ような掌編から短編まで様々な51の作品が収められた本。マグリットの絵を装丁に使った人…

『カウンセリング熊』アラン・アーキン

はまぞうちゃんで出なかった。傷ついた動物が熊のもとに集まって生活しながらライオンを目指す話。ジョークを言ったのに誰も笑わなかったので熊が洞くつに帰っちゃうくだりが好きですね。「災い転じてテーブルの脚」。笑わせることがいちばん難しい、という…

『盤上の四重奏〜ガールズレビュー〜』友桐夏

一部で話題騒然だった『白い花の舞い散る時間』と同じ世界の作品。うむむ、頭が痛い。自意識にまみれた少女の話を読むのはそろそろキツくなってきました。そもそも何でそんなにピリピリしてるのかがよくわからないんだよね……。負けたら死ぬとかいうルールな…